「見捨てられ不安」という言葉を聞いたことがありますか?
見捨てられた過去の経験から、信頼する人が自分から離れてしまうことを極端に不安に思う心理状態のことを「見捨てられ不安」と呼んでいます。
今回は見捨てられ不安について、以下の順でお話しします。
見捨てられ不安の人の心理状態
まず、見捨てられ不安の人の心理状態についてお話していきますね。
否定される=見捨てられる
見捨てられ不安がある人は、子どもの頃から否定されて育てられた人が多いです。
否定される自分はダメな自分であり、ダメな自分は見捨てられるのだという”心のクセ”を持っています。
否定される=見捨てられる、という公式を信じているため、相手に少しでも否定されることは見捨てられるのではないかという恐怖に感じるのです。
どんなに信頼している人でも、親密な関係の人でもそう感じるのです。
むしろ、信頼しているからこそ、親密な関係でいたい人だからこそ、恐怖に感じるのだと言えるかもしれません。
相手の一挙手一投足を、全神経を研ぎ澄まして観察し、
✅メールの返信がいつもより遅い
✅電話の声のトーンがいつもより低い
✅会う機会が少なくなってきた
といった些細なサインを、否定されたサイン=見捨てられるサイン として受け取ってしまうのです。
たとえ、相手にはそんなつもりはなくても…です。
相手を心から信じられない
見捨てられ不安がある人は、「いつか見捨てられる」と思いながら人間関係を作っています。
たとえば、友だちができたとしても「いつか離れていくよね」と思う気持ちが心の中にありますし、パートナーができたとしても「いつか見捨てられるんだ」と思いながら交際することになります。
つまり、相手を心から信じることができなくなっているのです。
このような状態で、相手から些細な否定の言葉や行動を見つけると、「いつか見捨てられる」といつも思っている分、その関係性はもろく崩れていきます。
そして、やっぱり自分は見捨てられるのだという思い込みをさらに強く信じることになるのです。
さらに、見捨てられるのはイヤだと思っているからこそ、さらに見捨てられ不安でいっぱいになり、些細なサインも見逃さないように…と相手の一挙手一投足を観察するようになるのです。
そんな負のスパイラルに陥ってしまうのです…。
感情のコントロールができない
見捨てられ不安を感じる人の中には、相手の気持ちを敏感に察知して、よかれと思う行動を取ったのに、相手から自分のことを否定するような、見捨てるような行動をされたとき、急激な不安や怒りに支配され、自分で自分の感情をコントロールできなくなってしまう人がいます。
そして、冷静になったとき、「なぜあんなことをしてしまったのだろう」と自己嫌悪に陥ってしまうのです。
防衛機制という自分の心を守ろうとする”心のクセ”からこのような状態になってしまうのですが、感情のコントロールができない状態が頻繁に起こる人はパーソナリティ障害の可能性もあります。
程度の問題はありますが、心当たりのある人は、心療内科などを一度受診することをお勧めします。
見捨てられ不安の人の”試し行動”
見捨てられ不安のある人は、相手に対して「試し行動」をとってしまいがちです。
相手がちゃんと自分を愛してくれているのか、それを確認するために行う行動なのですが、この「試し行動」が何度も行われると、相手が疲弊し、困らせることになってしまいます。
「試し行動」にはどんな行動があるのか、見ていきましょう。
何度もメールや電話をする
親友やパートナーに何度も、頻繁にメールや電話をしてしまう…
これは見捨てられ不安からくる典型的な試し行動です。
自分が相手から必要とされているか、見捨てないでいてくれるか…相手の気持ちを確認するために相手を何度も試すのです。
その頻度は、ストーカーと思われても仕方ないくらい頻繁になることもあります。
相手の気持ちを確認する頻度と、相手を必要としている度合いは比例します。
必要としているからこそ見捨てないでほしいと願い、相手の自分に対する気持ちを確かめたいからこそ、メールや電話で相手に試し行動をしてしまうのです。
束縛する
相手に対し、自分以外の人との交友を必要以上に制限し、束縛しようとします。
自分を置いてきぼりにしてあなただけ交友関係を広げるなんて、自分のことが必要じゃないの? いつか見捨てられるの? と見捨てられ不安が大きくなり、相手の行動をすべて把握したいという感情が芽生えてしまいます。
相手の人間関係を狭め、閉鎖していくことで自分だけを見るように仕向けると同時に、自分の見捨てられる不安を解消するという歪んだ感情がベースとなっています。
携帯電話を盗み見する
相手の携帯電話をのぞき見して、スケジュールやメール、SNSをチェックして、相手の行動を把握したくなる…これも見捨てられ不安による行動の一つです。
携帯電話ののぞき見はお互いの信頼関係にひびが入る行為です。
頭では理解したとしても、不安や恐怖の感情に支配され、行動を止められなくなっている状態です。
見捨てられ不安でいっぱいの人は、見捨てられ不安の些細なサインを常に把握していたいと思ってしまうのです。
感情をむき出しにする
見捨てられ不安の人は、これまでに見捨てられたというたくさんの記憶があります。
そして、今度こそ、この人こそ、自分を見捨てない人だ、見捨てられてきた過去から救ってくれる人だ、と相手に対し希望を抱いています。
いくつかの試し行動の結果、見捨てられるサインを感じ取ったとき、希望が崩れ去ってしまうことへの恐怖心や憎しみが暴発し、相手を非難したり、罵倒したりするのです。
相手は、わけがわからないまま、一方的に非難されたり、罵倒されたりするため、手に負えないと感じ、ほんとうに見捨てられてしまうことになります。
自傷行為をする
自分が大切に思っている人が、ほんとうに自分のことを見捨てないでくれるのか、確認するための試し行動として自傷行為をほのめかしたり、実際に自傷行為をしてしまうこともあります。
心から心配して連絡してくれることを確認して、自分が大切に思われていると安心したいのです。
自傷行為をほのめかされたり、実際に自傷行為をされた側は精神的に大きな負担を負うことになります。
ほんとうに大切に思っていたとしても、このような行為が続くことで、そばにいられなくなり、離れていくことにつながってしまうのです。
自傷行為をするほどに見捨てられ不安が極端に強い場合、パーソナリティ障害の可能性が高いため、早急に心療内科等を受診することをお勧めします。
どうして見捨てられ不安になるの?
見捨てられ不安の人は、相手を信じたい気持ちと、見捨てられる不安の板挟みになっていると言えるかもしれません。
どうして、そんな状態になるのか、その要因をお話しします。
子どもの頃に十分な愛情を受けていない(愛着障害)
子どもは親からの十分な愛情を受けて育つことで、心の安全基地が作られます。
外で傷つくことがあっても、冒険して疲れても、安全基地という戻る場所があることで、また安心して外に出たり、冒険することができるのです。
この心の安全基地が十分に作られていない状態を”愛着障害”と呼びます。
愛着障害の人は、安心して戻る場所がないと感じており、いつも不安な気持ちを抱えています。
親に愛されなかったという原体験が、親友やパートナーからも愛されないのではないか、いつか見捨てられるのではないか、という不安につながっているのです。
自己否定が強い
自分は見捨てられて当然の存在だ、という自己否定の強さ、自己肯定感の低さが見捨てられ不安の根源にあります。
こんなにダメな自分が誰かから愛されるわけがない、と自分を否定していることで、見捨てられ不安が加速するのです。
自己否定の強さ=自己肯定感の低さ は前述の愛着障害と密接な関係があります。
いじめによるトラウマ
いじめられた側は、いじめにより自尊心を粉々に打ち砕かれる体験をしています。
そのため、自己否定から見捨てられ不安に陥りやすいといえます。
一方、実はいじめる側のほうが、子どもの頃に親から十分な愛情を受け取れていない、つまり愛着障害であることがあります。
この場合、いじめる側は物心ついたときから”親にいじめられていた”とも言え、見捨てられ不安から過剰に自分の仲間とのつながりを求めるとともに、見捨てられる対象をつくることで自分の見捨てられ不安を解消しているとも言えます。
見捨てられ不安の克服と対処法
見捨てられ不安をどう克服すればいいのでしょうか?
対処法とあわせてご紹介します。
自分で自分を認める
見捨てられ不安の人は、愛着障害などによって、自尊心や自己肯定感が低くなった自分の不安定さを、親友やパートナーから必要とされることで肯定しようとしてしまいます。
しかし、実は自分を一番見捨てているのは自分自身、なのです。
自分で自分を認めたい、愛したいと思い、でも自分ではそうできないから相手に認められること、必要とされることでその気持ちを埋めたいとがんばってしまうのです。
自分で自分を認め、愛してあげることができると、「わたしは自分を見捨てない」という確信によって見捨てられ不安は解消されていくのです。
ルールを設定する
見捨てられ不安の人は、その不安を解消するために たとえば、メールや電話を何度も何度もかけ続けたりします。
これは、相手の状況を無視した行動であるため、相手にしてみれば迷惑でしかありません。
この場合、相手と自分との間にルールを設けることが肝心です。
メールは何回までとか、何時から何時までとか、おたがいに了承できるルールを設けるのです。
「ここまでがセーフで、ここからがアウト」という境界線を共有することで、見捨てられ不安を抑えることにもつながります。
専門家に相談する
感情がコントロールできなくなる、自傷行為をしてしまうなどの場合は、心療内科を受診されることをお勧めします。
自分で自分を認めようとしたり、ルールを設定したり…いろいろ試してみたけれど、ひとりではうまく取り組めないという場合、カウンセリングを受けることで克服することが可能になります。
自分の気持ちを吐き出し、それを受け止めてもらう体験を通して、自分を自分で認めることができるようになり、見捨てられ不安を克服していくことができるのです。
最後に…
大切な人に見捨てられたくない…それらは誰の心の中にもある感情です。
愛着障害などにより、その不安が過剰に大きくなったとき、見捨てられ不安による生きづらさを抱えることになります。
もし、あなたがいま、見捨てられ不安に駆られているとしたら、過去と現在の自分を冷静に見つめなおすことが大切です。
いま、あなたが子どもの頃の自分を愛して、受け入れてあげることで、見捨てられ不安を克服することができます。
ひとりで取り組むのが難しいときには、がんばり過ぎず、カウンセラーに頼ってみませんか?